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大阪地方裁判所 平成6年(わ)1476号 判決

本店所在地

大阪市浪速区塩草三丁目七番一八号

永和建設工業株式会社

右代表者代表取締役

栗田芳弘

本籍

大阪府枚方市伊加賀栄町七〇五番地

住居

同府同市山之上五丁目二四番一四号

会社役員

栗田芳弘

昭和一一年一月二〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官田毅出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人永和建設工業株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人栗田芳弘を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人栗田芳弘に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人永和建設工業株式会社(以下、「被告会社」という)は、大阪市浪速区塩草三丁目八番一二号(平成二年九月一日同区塩草三丁目七番一八号に移転)に本店事務所を置き、土木工事業を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人栗田芳弘(以下、「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として業務全般を統括している者であるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと考え、

第一  平成元年七月一日から平成二年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が別紙1の1の修正損益計算書記載のとおり一億三八二八万八四五八円であったのに、売上の一部を除外し、架空の外注費等の経費を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成二年八月三一日、大阪市浪速区難波中三丁目一三番九号所在の所轄浪速税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が八六六五万五二六九円で、これに対する法人税額が三三〇九万六四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙2の税額計算書記載のとおり被告会社の右事業年度の正規の法人税額五三七四万六一〇〇円と右申告税額との差額二〇六四万九七〇〇円を免れ、

第二  平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が別紙1の2の修正損益計算書記載のとおり二億四四三三万二九四四円であったのに、前同様の不正の行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成三年九月二日、前記所轄浪速税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が八三八八万七五四六円で、これに対する法人税額が二八八三万二九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙2の税額計算書記載のとおり被告会社の右事業年度の正規の法人税額八八九九万九八〇〇円と右申告税額との差額六〇一六万六九〇〇円を免れ、

第三  平成三年七月一日から平成四年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が別紙1の3の修正損益計算書記載のとおり一億〇五八一万七六〇〇円であったのに、前同様の不正の行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成四年八月三一日、前記所轄浪速税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が六九三二万四五五一円で、これに対する法人税額が二三一六万二五〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙2の税額計算書記載のとおり被告会社の右事業年度の正規の法人税額が三六八四万七四〇〇円と右申告税額との差額一三六八万四九〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通(六二、六三)

一  平山博和の大蔵事務官に対する平成四年一二月一五日付質問てん末書(五七)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一五通(記録第二一-一号、同第二一-四四号、同第二一-五七号、同第二一-八一号、同第二一-二号、同第二一-四六号、同第二一-四号、同第二一号-一〇号、同第二一-六五号、同第二一-七六号、同第二一-一八号、同第二一-六二号、同第二一-二〇号、同第二一-二一号、同第二一-二九号)(一〇ないし一二、一六ないし一八、二二、三〇、三一、三三、四四、四五、四九、五〇、五三)

一  大蔵事務官作成の証明書(青色申告書提出の承認取消についてのもの)(七〇)

一  大阪法務局登記官嶽釜寿雄各認証の登記簿謄本、閉鎖役員欄用紙謄本(六六、六八)

一  大蔵事務官作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(八)

一  被告会社代表者作成の証明書(六九)

判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書三通(記録第二一-四八号、同第二一-一三号、同第二一-二二号)(二三、三六、五一)

判示第一の事実について

一  白石敏夫作成の確認書(一三)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二一-八四号)(一五)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成二年八月三一日に申告した法人税確定申告書写についてのもの)(五)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成元年七月一日から平成二年六月三〇日までのもの)(二)

判示第二及び第三の各事実について

一  平山博和の大蔵事務官に対する平成五年三月二二日付質問てん末書(五九)

一  蔵橋由子の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(六〇、六一)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一四通(記録第二一-八五号、同第二一-八三号、同第二一-六号、同第二一号-七号、同第二一-九号同第二一-一四号、同第二一-一六号、同第二一-二五号、同第二一-六三号、同第二一-一七号、同第二一-一九号、同第二一-五四号、同第二一-五六号、同第二一-二三号)(一四、二六ないし二九、三七ないし四〇、四三、四六ないし四八、五二)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二一-一一号)(三二)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成三年九月二日に申告した法人税確定申告書写についてのもの)(六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までのもの)(三)

判示第三の事実について

一  平山博和の大蔵事務官に対する平成五年三月一五日付質問てん末書(五八)

一  藤原秀尚作成の確認書(二〇)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書四通(記録第二一-四三号、同第二一-一二号、同第二一-三二号、同第二一-六四号)(一九-三四、四一、四二)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成四年八月三一日に申告した法人税確定申告書写についてのもの)(七)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成三年七月一日から平成四年六月三〇日までのもの)(四)

(法令の適用)

罰条

被告会社 判示各罪について、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(いずれも罰金は情状により免れた法人税額に相当する金額以下)

被告人 判示各罪について、いずれも法人税法一五九条一項

刑種の選択 被告人の判示各罪について、いずれも所定刑中懲役刑を選択

併合罪の処理

被告会社 刑法四五条前段、四八条二項(判示各罪の罰金額を合算)

被告人 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

主刑 被告会社を罰金二〇〇〇万円、被告人を懲役一年

刑の執行猶予 刑法二五条一項(被告人に対し、三年間猶予)

(量刑の理由)

本件は、主として土留、杭打工事の土木工事業を営む被告会社の代表取締役として業務全般を統括している被告人が、被告会社の平成元年七月から平成四年六月までの三事業年度にわたり合計九四五〇万余の法人税を脱税したもので、脱税の額自体少なくない事案である。そして、本件の脱税の目的は、被告人の供述によると、中小企業である被告会社の将来の不況時に備えるため、あるいは、工事受注のための工作費、交際費の簿外資金の捻出にあったなどとするものの、会社あるいはその経営者としては、そもそも、正当な経理処理を行ない納税義務も果たしたうえで、そのような資金ないし利益の蓄積を図るべきであるのは当然のことであり、脱税の動機、目的としてとくにしん酌すべき余地はない。またその所得秘匿の態様は、倒産した下請会社、架空の会社名義の請求書、領収書、を作成して売上を除外し、あるいは、やはり虚偽の請求書等を作成して架空ないし水増した外注費等の経費を計上するなどしており、悪質であることなども考えると、被告人及び被告会社の刑責は重いといわなければならない。

しかし、被告会社においては、現在までに本件ほ脱にかかる法人税本税は修正申告により全額納付ずみで、延滞税、重加算税等についても重加算税の一部を除きその大部分を既に納付し、本件ほ脱に関わる各年度の地方税についてもそのほとんどを納付していること、また、被告人には、昭和六三年一二月の業務上過失傷害罪による罰金前科以外に前科はなく、本件の査察調査段階から事実関係を認めて本件を十分に反省していると認められることなどの事情もある。

そこで、以上のほか、諸般の事情を総合考慮し被告会社及び被告人をそれぞれ主文掲記の刑に処したうえ、被告人に対してはその刑の執行を猶予することにした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

別紙1の1 修正損益計算書

〈省略〉

別紙1の2 修正損益計算書

〈省略〉

別紙1の3 修正損益計算書

〈省略〉

別紙2 税額計算書

〈省略〉

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